作品
経歴
論文
Yo Ota 実験映画作家:太田 曜
作品|UN RELATIF HORAIRE No.3

 

■UN RELATIF HORAIRE No.3
時間的相対・第三作
1980年/16ミリ/カラー/サイレント/3分
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 パリ第8大学映画科に通っていた時制作した作品。当時住んでいたのはパリの北西、フランス革命ゆかりのバスティ−ユ広場に程近い下町だった。近辺は再開発のためビルの建設現場が散在していた。建設中なのか、解体中なのか壁と床だけの建物が撮影場所だった。画面中央に壁と床が丁度交差するように構図を決めた。画面の4分の1ずつ撮影するためには、4分の3の部分はマスクで覆う必要がある。そうして、フィルムを巻き戻しながら4回、それぞれコマ速を変えて撮影した。ワンカット、ワンシーン、カメラワークもないフィックスの画面だ。4分割されているがひとつながりの画面の各々の部分で同じ男が歩いている。同じような速さで歩いていただけの、同じ男の動きが画面では4種類の速度になっている。

 3×3インチ角のガラスフィルターを四分の一だけ素通しにし、各四分の一画面ずつスピードを変え撮影しては巻きもどす。フィルムは都合八回ゲートを通ることになる。この時使ったカメラはボリュー16、レジストレーション・ピンの無いこのカメラで逆回転にすると、フィルムはパーフォレーションの所が切れてしまう。現像所へ持って行くと自動現像機が、目切れの警告のために止まってしまうので現像を受け付けられないと言う。何回かの失敗の後、警告をはずして現像してもらう。当時現像料込みで4.000円位だったコダクローム40というリバーサルフィルムで撮影した。
 画面内を幾つかの部分に分け、それらをマスキングを併用して異なった撮影速度で撮影し、画面全体は統一された空間になっているという手法は、その後の作品でもしばしば使うのだが、これはそうした作品の始めと言ってよい。

 現実の時間経過ではあり得ない複数の時間経過が同一画面上で同時進行する。もともと映画は現実を、見ているのと同じように記録しそして再現するということは出来ない。勿論、そうしたことがしたいという欲望が映画を生んだということはあるにしても、見ている画面は単なる平面上の光の反射だ。この光の反射から空間や運動、時間を知覚するのは人間の視覚システムの方だ。そして、このシステムは生まれながらに与えられたものではなく、人間として社会的に生きていく中で形成される。

★ スウェ−デン・ストックホルム大学映画研究科マリン・ヴァールベルグの論文『Figures of Time』でこの作品が詳しく論じられている。
▼ 著者 Malin Wahlberg ホームページ http://myprofile.cos.com/malinwahlberg


作品|UN RELATIF HORAIRE No.3
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